電線の選定で最初にぶつかる壁、それが「許容電流」です。「許容電流って何のこと?」「カタログの数字をそのまま使ってええの?」みたいな疑問、現場の若手からよく聞かれます。
私は20年、電気工事の現場でケーブル選定を山ほどやってきました。住宅の小さな分電盤から、工場の大電流動力まで。その経験から「これだけ押さえとけば大丈夫」という考え方を、できるだけ噛み砕いて説明します。
- 許容電流の意味と、なぜそれが決まっているのか
- 許容電流を超えたら、実際に何が起きるのか
- カタログ値をそのまま使ってはいけない理由
- 電流減少係数・温度補正係数の使い方
- 現場で実際に使える計算式と例題
CHAPTER 1許容電流って、結局なんなん?
ひとことで言うと、許容電流は「その電線に安全に流せる電流の上限」のことです。
電線に電流を流すと、電線の抵抗のせいで熱が発生します。電流が大きいほど熱も大きい。で、熱が大きすぎると絶縁体(被覆)が溶けて、最悪は火災や感電につながります。
そうならないように「これ以上流したらアカン」という上限を決めたもの。それが許容電流です。
絶縁体の種類で許容電流が変わる
許容電流は、電線の太さだけじゃなくて絶縁体の許容温度でも決まります。具体的には:
- IV線・VVFケーブル(ビニル絶縁):許容温度 60℃
- CVケーブル(架橋ポリエチレン絶縁):許容温度 90℃
同じ太さでも、CVケーブルの方が許容電流が大きいんです。これは絶縁体の耐熱性が高いから、より高い温度まで使えるってこと。
住宅工事でVVFしか使ってない人が、初めて工場の動力工事に行って「同じ太さやのに、なんでCVの方が電流多く流せるんやろ?」って疑問に思ったらしいです。
それは絶縁体の差。VVFは60℃まで、CVは90℃まで耐えられるから、CVの方が容量大きい。これ知らんと、使い分けがちゃんとできません。
CHAPTER 2許容電流を超えたら、実際何が起きるのか
「許容電流を超えたら危ない」って言われても、ピンとこない人もいるかもしれません。実際、現場では何が起こるのか。
段階的に進む劣化
許容電流を超えても、いきなり燃えるわけじゃないんです。段階的に劣化していきます:
| 段階 | 状態 | 結果 |
|---|---|---|
| 軽微オーバー | 絶縁体が少し熱を持つ | 劣化が早まる(寿命短縮) |
| 継続オーバー | 被覆が変色・硬化する | 絶縁性能が低下 |
| 大幅オーバー | 被覆が溶け始める | 絶縁破壊・短絡 |
| 極端オーバー | 導体が高温で溶断 | 火災発生のリスク |
怖いのが、「すぐには事故にならない」ところ。少しのオーバーなら、5年・10年経って初めて絶縁不良で事故が起きる、なんてこともあります。
CHAPTER 3カタログ値をそのまま使ってはいけない理由
ここが一番重要なポイント。カタログに載ってる許容電流は「理想的な条件」での値です。実際の現場では、この値より小さく見積もる必要があります。
カタログ値の前提条件
多くのメーカーカタログでは、許容電流は次の条件で示されています:
- 周囲温度:30℃
- 布設方式:単独(電線管に複数本入れない)
- 連続使用:3時間以内(連続負荷の場合は別途検討)
でも、実際の現場って:
- 夏場の天井裏は40℃を軽く超える
- 電線管に何本もまとめて入れる
- 24時間ぶっ続けで使う
こんな状況でカタログ値そのまま使ったら危険です。だから補正係数を掛けて、実態に合った許容電流を算出する必要がある。
CHAPTER 4電流減少係数の意味と使い方
電線管やダクトに複数本の電線を一緒に入れると、お互いの熱が逃げにくくなります。だから、本数が多いほど許容電流を下げて使う必要がある。これが電流減少係数です。
内線規程の電流減少係数
| 同一管内の電線本数 | 減少係数 | 使用例 |
|---|---|---|
| 3本以下 | 0.70 | 単相2線・3線、三相3線 |
| 4本 | 0.63 | 三相4線、単相3線+接地 |
| 5〜6本 | 0.56 | 複数回路の混在 |
| 7〜15本 | 0.49 | 多回路の幹線 |
| 16〜40本 | 0.43 | 大規模幹線 |
| 41〜60本 | 0.39 | 動力盤一次側 |
| 61本以上 | 0.34 | 受電盤・主幹 |
普通の住宅工事だと「3本以下(×0.70)」のケースが多い。動力工事や大規模ビルだと「4本」「5〜6本」も普通に出てきます。
気をつけるポイント
意外と知らない人が多いのが、「中性線・接地線も本数に含む」ってこと。たとえば「単相3線式」の100V/200V混在回路なら:
- L1(電圧線)+ N(中性線)+ L2(電圧線)= 3本
- これに接地線を加えると4本扱い
「3本以下やからギリ0.70で計算しとこ」が、実は4本で0.63にしないとアカンかった、みたいなケース。これ、実務でめっちゃあります。
CHAPTER 5温度補正係数の使い方
もう一つの補正係数が、温度補正係数。これは周囲温度が30℃を超える場所で使います。
温度補正係数(30℃基準)
| 周囲温度 | IV・VVF (ビニル60℃) | CV・CVT (XLPE 90℃) |
|---|---|---|
| 30℃以下 | 1.00 | 1.00 |
| 35℃ | 0.91 | 0.96 |
| 40℃ | 0.82 | 0.91 |
| 45℃ | 0.71 | 0.87 |
| 50℃ | 0.58 | 0.82 |
| 55℃ | 0.41 | 0.76 |
注目してほしいのが、ビニル絶縁とXLPE絶縁で温度補正の効きが全然違うこと。50℃の高温環境だと、ビニルは0.58までガタ落ちするけど、XLPEは0.82で済む。
だから工場の高温エリアや、夏の太陽光発電現場なんかは、CVケーブルが選ばれるんです。
ある工場の屋根裏配線を見積もった時の話。夏場は屋根裏の温度が50℃を超えるエリアやのに、CVケーブルの温度補正係数(50℃で0.82倍)を入れ忘れて計算してしまって、後で許容電流が足りないことに気づいた。
結局、現場で1サイズ上のCVケーブルに変更して事なきを得たけど、補正係数の入れ忘れで電線サイズがズレるのは、設計段階で必ず押さえとくべきポイントやと、その時学びました。
CHAPTER 6実際の計算例:これで完璧
ここまでの内容をまとめて、実際の計算をやってみましょう。
例題:IV5.5mm² を電線管に6本収容、周囲40℃
まず必要な数値を集めます:
- IV5.5mm²の許容電流(カタログ値):49A
- 6本収容の電流減少係数:0.56
- 40℃の温度補正係数(ビニル):0.82
計算:
カタログ値49Aだったのが、実際の現場条件では22Aまでしか流せないってことになります。半分以下!
「カタログ値だけ見て電線選んだら、実は容量足りない」っていう失敗、これでイメージ湧いたんちゃうかな。
CHAPTER 7連続負荷の考慮も忘れずに
もう一つ、見落としがちなのが「連続負荷」の扱い。電技解釈第148条で、3時間以上連続して使用する負荷については、負荷電流の1.25倍以上のブレーカ容量を選ぶことになってます。
これも電線選定に影響します。例えば:
- 連続負荷の電流:30A
- 必要なブレーカ容量:30A × 1.25 = 37.5A → 40A
- 40Aブレーカを保護できる電線:許容電流40A以上
普通の電灯コンセント回路は連続負荷じゃないんで、これは意識しなくてOK。でも業務用エアコン、サーバー機器、生産ラインのモーターみたいに3時間以上動きっぱなしの負荷は、必ずこれを考慮してください。
まとめ:電線選定は「保険」みたいなもん
電線選定って、ぴったりサイズで攻めようとすると、必ずどこかで火傷します。だから多少余裕を持って、ワンランク上のサイズを選ぶのが賢いやり方。
「この電線、25年使うんやから」って考えたら、最初に少しサイズアップしとくくらいで丁度ええんちゃうかな、と思います。
私の方でも電線選定で迷う案件のご相談は大歓迎です。1級電気工事施工管理技士・第一種電気工事士として、図面の精査からアドバイスまでお手伝いできます。