「同じ図面で3社に見積もり依頼したら、A社200万、B社350万、C社600万。なんでこんなに違うの?」
これ、お客さんから本当によく聞かれます。施主から見たら同じ工事のはずなのに、3倍も差が出るのはおかしい——気持ちはわかります。
でも、現場の側から見ると「3倍の差」には、ちゃんと全部理由があります。同じ図面でも、業者ごとに「どこに何を盛ってるか」「何を含めてるか」「誰が施工するか」がまるで違うんです。
20年現場をやってきて、見積もり比較で施主が損するパターンも、得するパターンも、たくさん見てきました。今回はその価格差がどこから生まれているのかを、業界の中の人として正直に書きます。
※ 同じ業者として「見積もりを作る側」の話は電気工事の見積もりで失敗しない7つのポイントにまとめてます。発注側・受注側どちらの目線でも参考になります。
- 同じ工事で見積もりが2〜3倍違う「6つの本当の理由」
- 多重下請け(中間マージン)の構造
- 諸経費が10%の業者と30%の業者の違い
- 「一式」表記の罠と、後から追加請求型の見積もり
- 安いほうが必ず得とは限らない理由
- 業者比較で必ず聞いておくべき5項目
REASON 1多重下請けの中間マージン
これが価格差の一番大きな要因です。電気工事は、ゼネコン → 1次下請 → 2次下請 → 3次下請、という階層構造になることが多くて、上にいくほど中間マージンが乗ります。
たとえば、実際に施工する3次下請の見積もりが200万だとして、各層が15〜20%乗せていくと——
これだけで200万円が334万円。1.7倍になります。さらに大手ゼネコン経由で、現場代理人の人件費・本社経費が乗ると、簡単に2倍を超えます。
逆に、地元の電気工事会社に直接頼めば、この中間マージンが全部なくなる。これが「直接発注」の最大のメリットです。
うちの会社にお問い合わせいただいた、ある工場改修の話。最初に大手から提案された見積もりが500万。「ちょっと高いから他にも当たってみたい」と相談を受けて、施主さんから現地を見せてもらって、うちで見積もったら200万でした。
図面も工事範囲もまったく同じ。違いはうちが直接施工で、間に元請が入ってないことだけ。施主さんは「今までゼネコン任せにしてた金額の半分以下で済んだ」とビックリしてはりました。
REASON 2諸経費(10% vs 30%)の積み方
同じ材料費・労務費でも、諸経費(一般管理費)の積み方で見積もりは大きく変わります。
諸経費の相場感はこんな感じ:
- 地元の中小電気工事会社:工事原価の 10〜15%
- 中規模の専門工事会社:工事原価の 15〜20%
- 大手ゼネコン・サブコン:工事原価の 20〜30%(本社経費・現場経費含む)
これは「会社の継続運営に必要な経費」なので、悪いことではありません。ただ、同じ工事でも、会社規模が違うだけで諸経費が3倍になるのは事実です。
諸経費の中身も、業者ごとに含むものが違います。標準的には次のようなものが含まれます:
- 本社の事務員・営業の人件費
- 事務所家賃・光熱費
- 会社全体で使う車両・工具の減価償却
- 労災保険・雇用保険の会社負担分
- 営業利益(会社の儲け)
なお、運搬費や現場雑費は「現場経費」として別建てするケースと、諸経費に含めるケースがあって、これも業者によって違います。項目立ての違いが、そのまま見積もり金額の差になるんです。
REASON 3材料グレードの違い
図面に「LED照明 40W 2灯式」としか書かれていない場合、業者によって選ぶ製品が全然違います。
- A社(安):海外メーカー製・無名ブランド・1台 8,000円
- B社(中):国内メーカー普及品・1台 15,000円
- C社(高):パナソニック・東芝などの上位機種・1台 28,000円
これだけで、100台使う現場なら200万円の差が出ます。
電線も同じです。VVF・CV・CVTなど種類はもちろん、同じCV5.5sqでも、メーカー・撚り方・絶縁体グレードで価格が1.5倍くらい違うことがあります。
電線選定の考え方や、どこで価格差が出やすいかは電線の許容電流とは?選定の考え方で解説してます。安いから即ダメというわけではなく、用途に合った仕様かどうかが判断ポイントです。
REASON 4人工単価と有資格者の使い分け
労務費(電工費)の単価も、業者によって大きく違います。ただし、ここで押さえておきたいのは——人工には「原価人工」と「提出単価」の2つの層がある、ということです。
- 原価人工:業者が職人や外注に実際に払う日当。経費・利益は含まない
- 提出単価:見積書に記載される単価。原価に諸経費・一般管理費・利益を上乗せした金額
業者が「電工 1人工 25,000円」と書いてきても、それが原価ベースか提出ベースかで意味がまるで違います。資格区分ごとの目安を並べるとこんな感じです。
1級施工管理技士
補助工
※ 数値は地域・時期・現場規模で変動します。あくまで目安です。
提出単価は、原価人工に対しておおむね+20〜40%の幅で乗っかります。この上乗せの中身は、現場経費(仮設・運搬・工具消耗)・一般管理費(事務所・営業・社会保険)・利益(5〜10%)。この上乗せ率が業者によって違うので、同じ「第一種電工1人工」を投入しても、提出単価が25,000円のところもあれば32,000円のところもあるわけです。
さらに流派が2つあって、諸経費を人工単価に内包する業者と、人工は原価で出して別行で諸経費15〜20%を計上する業者がいます。最終金額はほぼ同じになりますが、見積書の見え方は変わる。「人工が安く見える業者が必ずしも安いとは限らない」のは、別行に経費を積んでるパターンがあるからです。
同じ工事でも、誰が施工するかで人工単価が違うのに加えて、その単価をどう積み上げるかでも業者間で差が出る。これが2〜3倍の見積もり差を生む大きな要因になっています。「とにかく安く」という業者は、補助工メインで見積もってる可能性が高い。逆に、複雑な制御工事・高圧工事を補助工だけで組まれると、品質的に不安が残ります。
電気工事士の1種・2種で何ができるかは電気工事士になるには?1種・2種の違いと現場でできることに詳しく書いてます。自家用電気工作物(高圧受電のビル・工場など)は第一種か認定電気工事従事者しか触れないなど、資格と工事範囲は法律で決まってます。
知り合いの工場経営者から「複数の業者で見積もりを取ってるんやけど、一番安いところがあからさまに安すぎて不安」と相談を受けたことがあります。比べたら相場の半額近く。よく見ると、人工単価が1人工 20,000円になっていました。
その工場は高圧受電の自家用電気工作物。本来は第一種電気工事士か認定電気工事従事者しか施工できない物件で、20,000円という単価では資格者を揃えるのが難しい計算です。「念のため、資格証の提示を求めてみては」と伝えたところ、結局その業者は提示できず辞退になったそうです。
安いのが悪いわけじゃありません。ただ、資格区分が法律で決まっている工事では、相場と乖離した単価が出てきたら、施主側で資格確認をしておくと安心です。
REASON 5「一式」表記の罠と工事範囲の違い
見積書に「電気工事一式 ○○円」とだけ書いてある業者、要注意です。
「一式」だと何が含まれて何が含まれてないか、施主側からはわからない。施工が始まってから「これは別途です」と追加請求が出てくる典型パターンです。
同じ「電気工事」でも、業者によって含まれる範囲はバラバラ。よく揉めるのは:
- 既設配線・既設器具の撤去・処分費
- はつり工事・コア抜き
- 足場・高所作業車のレンタル代
- 夜間・休日作業の割増(テナント営業中の改修などで必須)
- 防火区画貫通の耐火処理
- 受電工事・電力会社申請(高圧受電の場合)
- 消防検査・自主検査の立会い費
- 銘板・名札・図面更新
- 引渡し書類(竣工図・試験成績書)作成費
A社の見積もりが安かった理由は、これらが全部「別途」になってただけ、というケースは本当によくあります。最終的に追加で請求が来て、結果的にC社の最初の見積もりとほぼ同額になる、ってオチです。
REASON 6後から追加請求型 vs 含み済み型
見積もりスタイルには、大きく2タイプあります。
① 後から追加請求型(安く見える)
- 最初の見積もりは安い
- 「想定外」が出るたびに追加見積もりを出す
- 結果として、最終金額は当初の1.3〜1.8倍になることが多い
- 追加のたびに発注承認が必要で、施主の事務負担も大きい
② 含み済み型(最初は高く見える)
- 現地調査をしっかりやって、想定リスクを最初から積む
- 最初の見積もりは高めに見える
- 追加が出にくく、最終金額は当初見積もり通り(±5%程度)
- 施主は「予算が固定できる」安心感がある
どっちがいいかは現場と施主の方針次第ですが、役所工事・補助金工事のように予算が固定の現場は、絶対に②の含み済み型を選ぶべき。①でやって追加が出ると、予算オーバーで補助金が下りなくなることがあります。
「安いほうが正解」とは限らない理由
ここまで読んでもらったらわかると思いますが、見積もりが安いのにはちゃんと理由があるんです。理由は主にこのどれか:
- 中間マージンが少ない(直接施工)→ これは純粋にお得
- 諸経費が薄い(小さい会社)→ お得だが、保証・アフターは要確認
- 安い材料を使う → 用途次第
- 無資格者・経験浅い人を使う → 工事内容によっては危険
- 工事範囲を絞っている(一式表記)→ 後から追加請求の可能性
- 赤字覚悟の受注(特殊事情)→ 後でしわ寄せが出やすい
このうち、施主にとって本当にお得なのは1番目(中間マージンの削減)だけ。それ以外は、何かを削って安くしてるだけなので、後で別の形でツケが回ります。
業者比較で必ず聞く5項目
見積もり比較するときは、金額だけ見ても判断できません。次の5つを必ず確認してください:
① 元請か下請か(誰が直接施工するか)
「自社で施工しますか?それとも他社に発注しますか?」と単刀直入に聞く。下請に丸投げの業者は、その分のマージンが乗ってます。
② 諸経費の内訳と率
「諸経費は工事原価の何%ですか?何が含まれてますか?」を聞く。10〜15%なら相場、25%超なら高め、と判断できます。
③ メーカー・型番の指定
「主要器具はどのメーカーの何番を使いますか?」を聞いて、見積書に明記してもらう。「同等品」表記は、安物にすり替えられる典型パターンです。
④ 適用範囲・除外項目
「この見積もりに含まれてないものは何ですか?」を必ず文書で出してもらう。「一式」しか書いてない見積もりは、再見積もりを依頼してください。
⑤ 追加発生時のルール
「追加が出る場合、いつ・どう報告されますか?」を確認。「都度書面で承認」が基本。口頭OKだけは絶対にダメです。
まとめ:3倍の差は、ほぼ「構造」の差
3倍の見積もり差の正体は、その業者が現場を見る目の正確さじゃなく、業界構造のどこに位置してるかです。
多重下請けの上のほうにいる業者は、現場が同じでも見積もりが2〜3倍になる。それは怠慢でも悪意でもなく、構造上そうなってるだけ。逆に、地元の電気工事会社に直接発注すれば、その構造を全部スキップできます。
ただし、「直接発注 = 必ず安全」じゃないのもまた事実。資格・実績・保証体制をちゃんと確認したうえで選ばないと、安物買いの銭失いになります。
見積もりを作る側の話は電気工事の見積もりで失敗しない7つのポイントに、電気工事業のキャリア・資格の話は電気工事士になるには?1種・2種の違いにまとめてあります。あわせて読んでもらえると、業者選びの目がさらに肥えると思います。
3社見積もりを取ったら、金額差の理由を6つの観点で1個ずつ潰していく。これが、施主としていちばん損しないやり方です。